2.補中益気湯の腸管免疫系を介した粘膜免疫系調節作用と作用成分の解析

補中益気湯は約750年前に中国で開発された10種の植物性生薬から構成される漢方薬で、身体的・精神的消耗状態の各種の疾患の治療に用いられています。その適応症は多岐にわたります、その作用の本質は消化管機能に対する作用であると考えられております。医療用エキス製剤での比較臨床試験から、免疫弱者におけるMRSA気道保菌や無症候性MRSA尿症に対する予防・治療効果、抗がん剤による食欲不振、全身倦怠感や骨髄抑制の改善効果などが報告されており、毎年のエキス製剤の国内生産量が上位5位以内に入る頻用処方となっています。

これまで当研究室では補中益気湯医療用エキス製剤について上気道や腸管での抗原特異的抗体産生に対する作用の解析を行い、経鼻的や経口的に投与した抗原タンパクに対する全身免疫系での抗体産生応答が本エキス製剤の投与で有意に増強されることを明らかとしてきました。これに対し、本エキス製剤の経鼻的に投与した抗原タンパクに対する上気道での抗体産生応答に対する増強効果は若年マウスでは観察されず、加齢マウスで認められることも明らかになっています。

本エキス製剤の投与に伴うパイエル板での遺伝子発現変化のマイクロアレイ解析やフローサイトメトリー解析からパイエル板や末梢血中のCD62L陽性Bリンパ球数が有意に上昇することが明らかとなり、補中益気湯エキス製剤の投与によりパイエル板から上気道などの末梢免疫実効組織へのナイーブBリンパ球の帰巣現象が鼓舞されることが示唆されました。

また、補中益気湯エキス製剤のパイエル板に対する作用の解析から、パイエル板の濾胞関連上皮でのケモカインのCCL20 (MIP-3α)の発現増強が起こることが観察され、パイエル板内での樹状細胞などの局在化を本エキス製剤が変化させ、免疫応答の変化をもたらしていることも想定されるようになってきています。

一方、補中益気湯の上気道粘膜免疫系に対する賦活化作用成分の検討から、経鼻的な抗原接種により惹起される全身免疫系での抗原特異的抗体産生応答はその多糖画分のみの投与で強く増強されましたが、上気道における抗体産生応答への賦活化作用は本漢方処方エキス中の低分子成分を含めたいずれの画分の投与によっても観察できず、脂溶性低分子成分、オリゴ糖および高分子多糖成分の組合せ作用により発現されることが明らかとなりました。補中益気湯エキス製剤の多糖画分には17種を超える多糖成分が含まれており、パイエル板でのIL-2やIL-5の産生を変化させることや濾胞関連上皮でのCCL20 (MIP-3α)の発現増強を引き起こすことも明らかとなってきています。

補中益気湯が抗がん剤の投与による食欲不振の改善作用を示すことが臨床研究により明らかとされています。抗がん剤として用いられているメソトレキセートを処置することにより作成した小腸粘膜炎モデルマウスを用いた補中益気湯の作用の検討を行ってきており、この粘膜炎症改善作用に関与する作用成分の上気道粘膜免疫系の賦活化作用の発現への関与について検討を行っています。

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