有用物質生産菌としての微生物

 微生物は多種多様な構造ならびに生物活性をを有する化合物(2次代謝産物)を生産する。これらのうちのいくつかは医薬品としてまた動物薬あるいは農薬として利用されており、 我々の社会生活に多大な貢献をしている。土壌微生物である放線菌は一般的に菌糸状の形態をとることを特徴とするが、分類学的には真正細菌の中のグラム陽性細菌として、 そしてドメインBacteria内の主要な系統群の1つであるActinobacteria門の一員とみなされている。

 この系統群はDNAのG+C含量が通常55 mol% 以上で、 病原細菌の結核菌・ライ菌などのMycobacterium属やNocardia属など、また工業微生物として有用なグルタミン酸・リジン生産菌などのCorynebacterium属などを含む。
 一方、放線菌(特にStreptomyces属)は数多くの抗生物質を含む有用物質を生産する能力を有しており、β-ラクタム、アミノグリコシド、ペプチドあるいはマクロライド化合物 のいくつかは医薬、動物薬あるいは農薬として使われている。
Streptomyces属放線菌から生産される医薬品、動物薬および農薬

Streptomyces属の微生物はこれらの物質を医薬品として供給可能な大規模生産に耐え得る能力を有しており、 物質生産のための本質的な機能を有している微生物であると言える。 したがって、本属、特に工業生産に使用されているStreptomyces属の菌株のゲノム解析は物質生産における有用な情報が得られるものと期待される。

その他の特徴

Streptomyces属放線菌の寒天培地上での生育

 放線菌(Streptomyces属の例を示す)は下図のような複雑な形態分化がみられる。これらの複雑な分化の過程には多くの遺伝子による複雑な制御機構が存在するものと思われる。
Streptomyces属放線菌の生活環