Avermectinの生合成

 エバーメクチン(avermectin)は非常に複雑な構造を有しており、 それを生産する微生物(放線菌)ではどのような化学反応で作られているかは非常に興味の持たれるものである。 エバーメクチンはエリスロマイシン(erythromycin)やロイコマイシン(leucomycin)などの抗菌マクロライド抗生物質と同様、 低級脂肪酸が縮合したポリケチドからなる大環状ラクトンにデオキシ糖が配糖化した化合物である。

大環状ラクトン化合物
ErythromycinおよびLeucomycinは抗菌薬、amphotericin Bは抗真菌薬、Avermectinは
駆虫薬および殺ダニ薬そしてFK506は免疫抑制薬として使用されている。
A; 酢酸、P; プロピン酸、B; 酪酸、G; グリコール酸、S; その他の脂肪酸

 上の図に示したようにエバーメクチンはその基本骨格の部分(アグリコン)が酢酸、プロピオン酸、 そしてバリンあるいはイソロイシンから生成する分枝脂肪酸から作られることが、 そしてデオキシ糖(オレアンドロース)の部分はグルコースから作られる。さらにこれまでの研究によって、 下図に示したような生合成経路によってエバーメクチンは生合成されることを明かにした
なお、我々の一連の研究によって明らかにされたエバーメクチン生合成経路(およびそれらの遺伝子)は京都大学化学研の KEGGからも参照できます
Avermectinの生合成経路

 生合成経路が明かになるとその経路を人為的に制御することによって特定の成分のみを生産させることが考えられる。 いくつかのエバーメクチン生合成変異株(生合成経路の変異によって最終産物を生成することのできなくなった変異株)の生成物のパターンから それらの変異を組み合わせることによって生産物の成分をコントロールすることができる。
 通常、Streptomyces avermitilisは8つのエバーメクチンの成分(A1a, A1b, A2a, A2b, B1a, B1b, B2aおよびB2b)を同時に生産する。 これらのうち、B1成分が最も優れた抗寄生虫・抗昆虫作用を有するため、これらの生産物からB1aおよびB1b(工業的な分離が不可能なため)成分を 医薬品あるいは動物薬・農薬として製造している。エバーメクチン生合成変異株、K2034とK2021はエバーメクチンの8つ成分のうちの4つの成分のみを蓄積する(下図参照)。
Streptomyces avermitilis野生株(K139)およびavermectin生合成変異株(K2034およびK2021)の生産物のHPLC

 これらの変異株の蓄積する成分のうちB1aとB2aは両変異株が生産する成分である。 したがって、両変異株の変異形質を併せ持つ2重変異株はこれら2つの成分のみを蓄積すると考えられる。 なお、B1a成分は優れた活性を有しており、医薬品、動物薬および農薬として使用されている成分である。 細胞融合あるいは遺伝子破壊によって下図に示したK2024とK2021の変異形質を有する組換え体K2038株を得た。
Streptomyces avermitilisK2038の生産物のHPLC

 K2038株はavermectinの生産量の減少もなく、B2a成分と優れた活性を有するB1a成分の2つの成分のみを生産した。